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第二回 きものの世界っておもしろい

吉川染匠株式会社4代目 吉川 博也氏

京都市上京区千本通下立売東入ル 吉川染匠株式会社4代目。35歳。
18歳で家業の染匠を継承すべく同業他社へ入社。10年間の修業を経てのれん分けを受け独立。さらなる成長に期待が寄せられる若手染匠として敏腕を振るう傍ら、京都染織青年団体協議会の要職にも就く。
野球選手になりたかったと、幼きころの夢を語る氏はスピード感と若々しい判断力を備え持つ。業界の若手リーダー的存在と人望厚し。

「染匠」の心を今に引き継ぐ -染匠の一日密着レポート(その1)-

立春のころ、底冷えで知られる京都の街はまだまだ寒い。そんな中、今回は染匠の吉川博也さんの仕事に同行し取材させて頂くことになった。
京都の路地を縦横に走るには、なんと言っても自転車か軽自動車が便利。吉川さんが乗って現れたのはもちろん軽のバンだった。長身に茶色っぽいウェーブの髪、さりげなくブランド?黒系ファッションに身を包んだ彼は和装業界人には見えにくい。

さっそく質問。「染匠っていうのは一言で説明するとどういうお仕事なのでしょう?」
「もともとは手描友禅職人の組織体から成るもので、様々な工程が細かく分業化されています。それぞれのスペシャリストが一枚の友禅きものを作るまでに技を凝らしていくわけです。私たちの仕事はそれらを束ねるコーディネート役、つまりは現場監督。と、いうかプロデューサーかな?白生地をクライアントである問屋さんから頂き、意匠(デザイン)から創り出していくのですよ」。

確かに染友禅の制作工程は十数から二十近くあると聞いていた(注)。企画考案に始まり、ゆのし、検尺(けんじゃく)・墨(すみ)打ち、仮絵羽(かりえば)仕立て、下絵、糊置、伏糊、引染、蒸し、水元(みずもと)、挿友禅(さしゆうぜん)など。染め上がったものに金彩や刺繍を施すこともある。とにかく多い専門用語、吉本さんからの口からポンポンと出る言葉の意味がわからない。うーん、後でゆっくり聞くことにしよう。ひっきりなしに掛ってくる携帯電話に対応する彼の忙しさには驚いた。

車はとある染工場の前に止まった。京都の染工場は間口が狭くて奥が広い。3階か4階建てなのだろう、裏の階段をカンカンと走りあがる。ここでは引染(地染め)から水元(つまりは水洗いの工程までが行われているという。吉川さんの「まいど!」の声に開けられた引き戸の向こうで行われていたのは地入れ作業。地入れとは、豆汁とふのり液を混ぜた地入れ液を張った生地に刷毛を使って引いていくこと。染料が生地に均等に浸透しやすくするとともに、染料液が伏粉の内側ににじみこむのを防ぐ働きがあるらしい。反物を吊るすため奥に長い作業場で、年季の入ってそうな職人さんが、黙々と刷毛塗りを進めていた。

さらに別の部屋へ。「色合せ」という工程を行う作業室にやってきた。様々な染料や秤、溶かした染料が張られた桶が置かれている。「染料は微粒子なので舞いやすい。だから生地がある場所から隔離してあるのですよ。引染しようとする色を色見本に合うように調合し、データ化しています。最初は手合わせやけどね。」と吉川さん。「同じ朱赤でも、私がイメージし使いたい朱赤と、他の染匠さんが好む朱赤は異なります。長く付き合っている職人さんだからこそ『吉川はんところの朱赤』と、わかってもらえてて安心です。」とも。貴重な染料データは色見本のハギレを添付して作られている。「おっと、これは企業秘密やね」、吉川さんはちょっとだけ誇らしげに笑った。

次回に続く

(注)

制作工程図 企画考案 ゆのし(下のし)険尺・墨打ち 下絵羽 下絵 糊置(ゴム糸目)
伏糊 引染(地染め) 蒸し・水元 挿友禅 蒸し・水洗・水元 ゆのし(中のし)金彩
刺繍 ゆのし(上げのし) 地直し 仕上げ 上げ絵羽
紋糊 墨染 水元 紋上絵
糊糸目(赤糸目) 挿友禅 蒸し 伏糊 地染め 蒸し・水元
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